小説1 菅谷1

「やばいやばいやばいやばいーーー!!」
私は自分の部屋で絶叫していた。
思いっきり寝過ごしたよー。このままじゃ遅刻しちゃうかも。
私は壁に掛かっている時計を見る。時計の針は予定を大幅に過ぎていた。
転入初日なのに、遅刻なんてありえないよ。はぁ、昨日ちゃんと早く寝たのになぁ。ていうかお母さん、ちゃんと起こしてよーって感じ。とにかく急いで準備しなきゃ!
私はバタバタと身支度を整える。
「カバンよしっ!!制服よしっ!!髪形もよしっ!!うん、私かわいいぞ!!」
私はそう言って、鏡の前でポーズをとる。
・・・って、こんなことしてる場合じゃないや。
私は自分の部屋を飛び出して、いつもは台所に向かう動作をショートカットして、そのまま玄関へと向かう。
「行ってきまーす!!」
私は勢いよく玄関のドアを開ける。外に出て上を見ると、5月の空は見事な快晴だった。軽く伸びをして、深呼吸を一つ。
・・・うん、いい感じ。まさに新しい生活の幕開けって感じだね・・・、って、のんびりしてる場合じゃない!!バスの時間は・・・、やばいっ!!間に合わないかもー!!
私は猛然と走り始めた。




「ハァハァ・・・」
私は息も絶え絶え、なんとか今日から通うことになった、私立『波路羽学園』の校門へと辿り着いた。
あー疲れた・・・。こんなに走ったのは久しぶりだよ。せっかく時間無い中、髪の毛セットしたのにもう台無し。髪型決めても意味がなしになっちゃった。でもまあとりあえず遅刻はしなかったから、よしとするか。えーっと、お父さんが、まず職員室に行けって言ってたなぁ。でもどこかわかんない、どうしよう・・・。
私はそう思いながら辺りをぐるりと見渡すと、少し離れたところに一人の女生徒が歩いているのを発見した。
あっ、あの子に聞いてみようっと。
私は女生徒の近くまで再び走り
「すいませーん。職員室ってどこですか?」
と質問してみた。女生徒は歩みを止め、首だけをこちらに向け
「は?」
と、低いトーンで言った。私はそれを聞いて一歩後ずさってしまう。
うわっ!なんか怖い!!それにもしかして引かれてる?でも同じ制服着た子にいきなり「職員室どこですか?」って聞かれたら、確かにおかしな子って思われるかも・・・。ちゃんと説明しないとね。
「あのー私、今日からこの学校に通うことになったものなので・・・」
私は恐る恐るといった感じでそう補足した。女生徒は同じ姿勢のまま、しばし沈黙した後、すっと指をさして
「職員室は1階の一番北側」
と、また低いトーンで言った。
「ありがとうございますー」
私はペコリと頭を下げ、女生徒が指差したほうへと歩き出した。
ふ〜、なーんか怖い子だったなぁ。身長もすごいおっきいし。
少ししてから振り返ると、校舎へ向かって颯爽と歩く女生徒の後姿が見えた。
でもなんか、かっこいいかも。
私はその女生徒の後姿を見つめながら、そう思って一人ウンと頷く。
・・・っと、それより早く職員室に行かなきゃ。




「私が1年B組担任の中澤です。よろしくね、菅谷さん」
「はい、よろしくお願いします!!」
「うん、いい返事ですね。それにその笑顔。いいわね、若いって・・・」
「そうですか?」
「うん、いいわー。・・・ていうか、かなり憎い」
「えっ?」
「あはは嘘、嘘、ジョーダンよー」
「はぁ・・・」
冗談って言ってるわりに目が笑ってないんですけど・・・。ちょっと怖いなぁ。でもまあ悪い先生じゃなさそうだ。私が職員室の前で入るのを躊躇してたところに声をかけてくれたのもこの先生だったしね。
「じゃあHRの時間だし一緒に教室行きましょうか。そこでみんなに自己紹介してもらいましょう」
「えぇっ!?」
「何?」
私のリアクションを見て、先生は不思議そうな顔をしている。
「いやぁ・・・。なんでもないです」
私はあわてて胸の前で両手を振りそう言った。
うぅ〜、早くも最大の難関がきたよー。まあわかってましたよ。そりゃあこういう展開になるのはわかってたけど・・・。心の準備が。大勢の人に注目されると緊張しちゃうんだよねー。顔は真っ赤になっちゃうし、笑顔も引きつっちゃうし。大丈夫かなぁ私。




「えー皆さん。おはようございます。今日からこの学校に転校してきた菅谷さんです。仲良くしてあげて下さい。じゃあ菅谷さん、自己紹介して」
「・・・はい」
中澤先生に促され、私は一歩前に出る。
うぅー、緊張するー。でもがんばれ私。昨日しっかり鏡の前で練習したことをやればいいんだ。それにこんなの長い人生からしたらほんの一瞬だ。うん、私は出来る!よしっ!!
「きょ、今日からこの学校でお世話になります!菅谷梨沙子です。皆さんよろしくお願いします!!」
私はそう言って、ペコリと頭を下げた。
よし、できた!!顔は真っ赤になってるだろうし、笑顔も引きつっちゃってるだろうけど、挨拶は噛まずにきちんと言えたぞ!!うん、いいスタートだ。やったぞ私!!