小説2 徳永1

「すがさこって・・・」
私は思わず声に出してしまってから、それに気づき少し慌てた。しかし周りにはその声は聞こえなかったようなので、私はホッとした。
それにしてもなんだろ、『すがさこ』って?
私はこっそりと周囲の雰囲気を伺ってみる。やっぱりみんなも唖然としてるいるようだった。頭の中には私と同じく『すがさこ』という言葉があるに違いない。
「すがさこ、ねぇ・・・」
私はもう一度、転入生が言った謎の言葉を小さく繰り返してみた。
あっ、名前が『菅谷梨沙子』だから、ニックネームのつもりかなぁ?・・・にしても自己紹介で、いきなりはありえないよねー。それならまず名前をちゃんと言ってからでしょ。
私は教壇に立っている転入生を、まじまじと観察する。転入生はニコニコと満面の笑みを浮かべていた。
変わった子が来たなぁ。まあでも私のリサーチどおり顔はかわいいからいいや。それに性格もよさそうだね。
私は胸のポケットから手帳を取り出し、転入生の情報が書かれているところに『性格よし』と追加した。
あーよかった。クラスのみんなに「すっごいかわいい転入生が来る!」って言っちゃったもんね。これならなんとか新聞部部長の面子は保てるラインだよね。あっそうだ!『桃』はどんな顔してるかなーっと。あの子、転入生がどんな子か、やたらと気にしてたもんなぁ。
私は廊下側最前列の自分の席から、中澤先生に気づかれないようにこっそりと振り返り、教室中央付近にいる『桃』の表情を確認する。この私が『桃』と呼んでいる子は、本名が嗣永桃子といって、このクラスで一番最初に友達になった子だ。桃は最初、ものすごい品のいいお嬢様って感じだったけど、打ち解けてくるとそれは全然違っていることがわかった。何が違うかって言うと、言葉遣いが全然違う。かなり口が悪い。
まあ賢い子だから、私以外の前ではそんな風にはならないみたいだけどね。賢いって言うか、ずる賢いのかな?
桃は頬杖をつき、転入生をジッと見ていた。
おーおー睨んでる睨んでる。あの転入生、桃の嫌いそうなタイプだもんなぁ。特にあのニコニコっとした笑顔。あれが桃の神経を逆なでしてると見たね。まあ私は面白いからいいけど。
「ではこれでHR終わりまーす」
私が前を向きなおすと同時に、担任の中澤先生がそう言った。
おっ、タイミングよく終わったし、さっそく桃本人に直撃インタビューと行きますかー。