小説13 夏焼2

私は昼休みの出来事の後、屋上でずっと眠っていた。
「ふぁ〜あ・・・」
気がついたときには太陽がだいぶ傾いていた。私は立ち上がり、屋上の柵にもたれかかるようにして景色を眺める。ここからの眺めが私は好きだった。景色を眺めながらポケットに手を入れ、MP3プレーヤーを再生する。聴こえてくるのは、なんとかっていうアイドルの曲だ。アイドルなんて興味ないけど、この曲はとても気に入っている。私は流れる音楽に合わせて小声で歌った。
しばらくすると突然肩を叩かれた。びっくりして振り返ると、そこには昼休みに囲まれていた女が立っていた。私は音楽を止め、イヤホンを外す。
「脅かしちゃってごめんね。呼んだんだけど聞こえなかったみたいだから」
女は申し訳なさそうにそう言ってきた。
「・・・何?なんか用?」
「うん、歌ってる声が聞こえたから・・・。誰かな、と思って・・・」
それを聞いて、私は顔が赤くなるのを感じた。でかい音で曲を聞いてたから、自分で思っていた以上に大きな声で歌っていたようだ。
「歌、・・・上手だね」
「・・・うっせーよ」
私がぶっきらぼうにそう言うと、女は萎縮したように、少しうつむいてしまった。
・・・何なんだ一体。
沈黙になり、気まずくなったので私は
「あんたタバコ―――」
―――持ってる?」と言いかけて、やめた。
・・・こんな奴が持ってるわけないよね。
私がそう思っていると、女はパッと顔を上げ
「タバコ?持ってるよ」
と言って、カバンをゴソゴソと探り、タバコとライターを取り出し「はい」と言って、私に手渡した。
「お、おう。サンキュ・・・」
私は驚きつつも、それを受け取り火をつける。ちなみに私、実はタバコは吸えないのだった。格好だけ、つまり吹かすというやつだ。女は私がタバコを吹かしているのを、ジーっと見つめてくる。
「・・・なんだよ、なんか文句あんのか?」
「ううん!!全然っ!!」
女は首を振りながらそう言った後、恐る恐るといった感じで口を開く。
「・・・私も吸ってもいいかな」
はぁ!?マジか!?無理すんなよ。・・・まあ私も無理してるけど。
「あんたのなんだから好きにすれば」
「うん!!」
女は嬉しそうに言うと、めちゃくちゃスムーズな動作でタバコを咥え、それに火をつけた。そして何のためらいもなく、深呼吸するように深々と吸い、「フウーーー」っと、大量の白い煙を吐き出した。
・・・こ、こいつすげえっ!!
その姿はまるで『ジョン・トラボルタ』みたいだった。