小説12 清水2

時計の針は午後5時を過ぎていた。私はいつもどおり、矢口さんたちに掃除当番を押し付けられ、一人で教室の掃除をしていた。
「ふう、やっと終わった・・・。後は黒板消しをはたくだけか」
私は独り言を言ってから、表面が白や赤や黄色が混じった、なんともいえない色で染まった黒板消しを持ち、教室の窓を開ける。窓の外にはグラウンドが見え、クラブ活動に励む生徒たちが駆け回っている。私はクラブ活動はしていない。これはいじめが原因ではなく、ただどのクラブもあんまり魅力的じゃなかっただけだ。クラブ活動をしなかったことを後悔はしてないけど、それでも時々私はこう思う。
この人たちはやりたいことができてるんだろうなぁ、辛いこともあるだろうけど、充実した毎日を過ごしているんだろうなぁ・・・、
と。それに比べ、私は日々を消化しているだけだ。充実なんて言葉からは程遠い。もちろんそれは、いじめが大きな原因になっているのは確かだ。
でも・・・、もし私がいじめられてなくても充実した毎日を過ごせていたかな?
私は黒板消しをはたきながら、ぼんやりとその光景を見ていたが、途中で視線を窓の外の地面へと向けた。私の教室は3階にある。外の地面までは10メートルほどあるだろうか。
もし、ここから飛び降りたら・・・。良くて骨折・・・、打ち所が悪かったら、もしかしたら・・・。
「ダメダメ!!」
私は首をぶるぶる振り、自分に言い聞かせるように声を出した。
さあ早く帰ろう。今日は連続ドラマ『明智シャーロックマイマイ』のある日だし、ご飯の前に宿題終わらせないと。
私はそう思いながら、だいたい綺麗になった黒板消しを元の場所に戻し、窓を閉めようとする。そこでふと気づいたことがあった。グラウンドのクラブ活動の声に混じって、かすかに違う声が聞こえたのだ。
・・・誰か歌ってる?
私は窓の外に顔を出し、キョロキョロとその声のするほうを探す。どうやら声は上から聞こえてくるようだ。
・・・誰だろう?