小説23 嗣永4

放課後、私は手紙の指示通り体育館裏にいた。そこには誰もいなかった。しばらくすると先輩ではなく、数人の女子生徒がやってくる。昨日体育館の中でキャーキャーと騒いでいたバカ女達だった。バカ女達は全員にやにやと笑っていて、私の前まで来ると声をかけてきた。
「あら、あんたこんなところでなにやってるの?」
「はい、先輩に手紙をもらったんです。ここで待ってるように書いてあったので」
私のその言葉を聞いて、バカ女たちは大きな笑い声をあげた。
「あんたバカ?先輩があんたに手紙なんか送るわけ無いでしょ。それはあたしたちが書いたのよ」
そう言ってひとしきり笑った後、バカ女たちの表情は一変し、低い声でこう言ってくる。
「何でそんなことされるか分かる?」
「いえ・・・、私わからないです」
「あんた生意気なのよ、先輩の周りをうろちょろとっ!!先輩が迷惑してんのがわかんないのっ!!」
バカ女たちは、とぼける私に対して、ものすごい剣幕で怒ってきた。
はぁ・・・、ホント頭悪い。そのセリフそっくりそのまま返したいわ。
私はギャーギャーとわめき続けるバカ女達の言葉を聞き流しつつ、チラリと腕時計を見る。
・・・そろそろか。
「すいません!!もうしませんから許してください!!」
私が突然大声でそう言ったので、バカ女達は驚いていた。
「おい、お前ら何してんだ!!」
そこに先輩がタイミングよく現れて、私達のもとへと駆け寄ってくる。突然の出来事にさっきまで騒いでいたバカ女達は、みな押し黙ってうつむいている。
「嗣永、どうしたんだ?」
「・・・わかりません。ここで先輩を待ってたら、急に生意気だとか言われて・・・」
そう言って私は泣いたフリをする。
「お前ら、なんでこんなことするんだよ」
先輩の問いかけにもバカ女達はうつむいたまま応えられなかった。
「とにかく大勢で一人を狙うなんて卑怯ことはするなよ」
先輩にそう言われてバカ女達はすごすごと帰っていった。そして2人きりになる。
「あの・・・ありがとうございます」
「いや、それより平気か?」
「はい、先輩が来てくれて助かりました」
私はそう言ってにっこりと微笑んだ。
・・・もちろんこれは私の計算どおりのことだったのだ。下駄箱に入っている手紙を見て、すぐに先輩からではなく、誰かの悪巧みだということに気づいた私は、この時間に先輩に来てもらえるよう手紙を出していたのだ。先輩に宛てた手紙の内容には、バカ女たちの悪巧みは伏せている。
「・・・あの先輩、突然手紙を出してすいません。これ渡したくて」
私はそう言って、照れた演技をしながらタオルを渡す。
「あ、あぁ。ありがとう」
タオルを受け取った先輩は照れた様子で頭をかいていた。私は先輩の表情を見て、こう思う。
ふぅ、これで数日の内に先輩のほうから告って来るでしょう。