小説29 徳永5

1時間目の授業中、私は次の科目のことを考えて憂鬱になっていた。次の科目とは体育だ。別に体を動かすのが嫌いなわけではない。教室の椅子に座って、ジッとしてるよりかは体を動かしているほうが全然いい。私が憂鬱になる理由は体育の授業でやる内容のためだ。
あーあ、やだなぁ・・・。
チャイムが鳴り授業が終わる。私は重い足取りで、更衣室へと向かった。着替えを済ませ体育館へと行くと、一足早く来ていたクラスの子達がネットを張ったり、ラケットを出したりと準備をしていた。体育の授業は今日からバドミントンだった。




私は中学時代バトミントン部だった。小学校の時、県の大会で3位になったこともあり、中学校でも一年生から期待のエースと言われていた。一部では『ジーニアス徳永』なんていう風にも呼ばれていたらしい。それらは決して大袈裟ではなく、私は見事夏の大会で一年生ではただ一人、シングルスのレギュラーの座を射止めた。しかし大会を目前に控えた練習中、足のじん帯を損傷。当然大会には出られず、その上リハビリに長い時間を費やすことになってしまった。
ようやく軽く運動ができるくらいまで直った頃には、私はもう2年生になっていた。私が久々に体育館に顔を出すと、みんな喜んでくれた。それは素直に嬉しかった。でも練習風景を見ているうちに、そんな気持ちはどこかへいってしまい、私の頭の中はあせりで埋め尽くされていた。私が休んでいる間に、同学年の子はすごく上手くなっていたからだ。もうアドバンテージは無くなっていた。後輩にも上手な子がいた。
そんな光景を見て、私はとても見ているだけなんてできなかった。ちょっとくらいなら大丈夫だろう、と私はみんなが止めるのも聞かず、ラケットを振った。始めは恐る恐るだったが、しばらく動いても足はなんともなかった。久しぶりにするバトミントンはとても楽しかった。それでついつい足のことも忘れてしまっていた。
そんな時、まるでこうなることが決まっていたかのように事件は起こる。勢いづいた私が全力でスマッシュを打とうと足を踏み込んだ瞬間、バチっという聞き覚えのある音が私の中で響いて、その場に倒れこんだ。
それ以来、私は1度もラケットを握ることはしていない。