小説30 清水5

私は4時間目が終わると、いつもどおりメモの準備をして、矢口さんたちが来るのに備えた。しかし矢口さんたちは、私のところには来ず、教室を出て行った。
あれ、なんでだろ?
とにかく今日は購買へ行かなくていいみたいなので、私はカバンからお弁当を取り出し、包みを解く。
今日のお弁当もとってもおいしそう。
と、思っていると横から声が聞こえてくる。
「わぁ〜、すごいおいしそうだね」
声のするほうを見ると、菅谷さんが私のお弁当をジッと見つめていた。いや、ジ〜ッと凝視していた。人差し指をくわえて、とても物欲しそうに見える。
「・・・よかったら食べる?」
「ホント!?やったぁー!!」
菅谷さんはそう言うと、自分の机を私の机にくっつけて「じゃあ、いっただきま〜す」と言って、私のお弁当からだし巻き卵を取り、食べる。
「んん!!これ、すごいおいしい!!・・・あっ、『Buono!』〜!!」
菅谷さんは何かを思い出したかのようにそう言って、片手の人差し指を自分の頬に指した。
「よかった。もっと食べてもいいよ」
「ホント!?えへへ〜、なんか悪いなぁ。あっ、じゃあ私のもどうぞ」
菅谷さんはそう言うと、自分のお弁当を私に差し出した。私はそれを見て絶句する。菅谷さんのお弁当は2段重ねで、上は日の丸弁当、そして下のおかずは、から揚げだけだった。
眩しすぎるぜっ!!・・・って私、何考えてんだろ?
私はそこから、おかずをひとつ取って食べる。
「うん、おいしい」
「へへー、そう?これ冷凍食品ばっかりなんだ。お母さん最近手抜きなんだよね〜」
菅谷さんはニコニコしながらそう言いつつ、更に私のお弁当からおかずを取り「うん、おいしい。お弁当はやっぱり手作りのほうがいいよね」と満面の笑みで言った。
・・・なんかこういうのいいなぁ。
この教室でお弁当を誰かと一緒に食べるというのは私にとって、はじめての経験だった。