小説3 嗣永1

がっかりだわ・・・。
私はHRが終わり、窓際の席に座った転入生を横目で見ながら、そう感じていた。
千奈美がかわいい転校生が来るって言ってたから、ちょっとだけ警戒してたけど・・・。あんな笑顔だけが取り柄です、って子じゃあ、私のライバルには到底なりえないわね。
そんなことを考えながら目線を前に戻すと、千奈美が笑顔で近づいて来て
「ねえ桃っ!!どうだった!?私のリサーチどおり、かわいい転入生が来たでしょ?」
と、嬉しそうに言った。
この子の名前は徳永千奈美。私は『千奈美』と呼んでいる。クラスの中では、まあ一番よく喋る相手だ。でも友達かって言われると・・・、正直どうかなって感じている。私とはランクが違いすぎるモンね。
「正直がっかりだわ」
「えー・・・、そうかな?かわいいと思うけど」
「まあ確かに顔は悪くないわ。でも全然ダメ。頭悪そう。何?あの自己紹介」
「すがさこね!!確かにあれはウケた。思わず突っ込んじゃったもん」
千奈美はそう言って、突っ込みの手振りをしながら笑う。別に面白くはないが、私もそれには同感だった。
『すがさこ』って何?意味わかんない。
「まあとにかく、あんな子じゃ先輩は見向きもしないわ」
「桃!?まだ先輩狙ってたの!?」
千奈美はそう言いながら、両手を万歳するように上げる。驚いた、というアクションだろう。
「当然よ。私はなんでも一番じゃないと気がすまないの。成績も一番。男子からの人気も一番。後は女子に一番人気の先輩を彼氏にすればパーフェクトだわ」
「桃、身長はちっちゃいじゃん。足も短いし」
「・・・何ですって?」
私は千奈美を睨みつけるが、千奈美はまったく構う様子もなく話を続ける。
「パーフェクトって言うんなら、身長も欲しいよね。ちなみに身長が一番高い女子は・・・」
そう言って千奈美は胸ポケットから手帳を取り出し、パラパラとめくり始める。手帳のカバーには大袈裟なくらい『マル秘』と書かれている。
そんなの書かなくても誰も見ないよ。新聞部部長とか言ってるけど、部員はこの子一人だし。ていうか、そもそも部じゃないし。はぁ、この子もたいがい頭悪い。
そんなことを考えていると千奈美は手帳をめくる手を止め
「えーっと熊井さんだね。176センチ!!」
と自慢げに言った。
よくもまあ、そんな無駄な情報を集めるわね。
「フン。あんないっつもボーっとしてる、ウドの大木のような子には宝の持ち腐れよ」
私はそう言って頬杖をついたまま、話題にあがった熊井のほうをチラリと見る。
「うわっ、怖〜。あの熊井さんにそんなこと言えるの桃くらいだよ。・・・でも桃、聞こえたら、さすがにヤバイよ」
「別に・・・、聞こえたところで、なんの問題もないわ」
「さっすが桃。言うことが違うね。お〜怖っ!!」
千奈美はそういうわりに、全然怖がっているようには見えない。むしろ楽しんでいるように見える。そこでチャイムが鳴った。
「っとチャイムだ。あ〜そうだっ!!」
「何?」
「先輩のことは・・・、まあなんていうか、がんばって。応援してるよー」
千奈美は明らかに適当な言葉を並べ、小走りで自分の席に戻りだした。私は相変わらず頬杖をついたまま、千奈美の背中を見て思う。
フン、がんばれですって?そのセリフはあんたに言いたいわ。私には努力なんて必要ないんだから。後、私の足は短いんじゃなくて、『コンパクト』なのよ!!