小説4 須藤1

転入生の席は、私のすぐ前だった。
「よろしくねー」
転入生は椅子に座ると、すぐに体を後ろに向け、笑顔でそう言ってきた。私はなるべく平坦な声で
「あぁ・・・よろしく」
と返事を返し、目線を窓の外へと向けた。私は窓際の後ろから二番目という、今の席がとても気に入っていた。本当は一番後ろがよかったけど、後ろの席の子はほとんど教室にはいないので最後列といってもいいし、しかも前は空席。狭く息苦しい教室の中で唯一開けた空間のような気がしたからだ。私にとって、とても居心地のいい環境だったのに、それが今は、なんとなく荒らされた気分がする。
まあ、この子のせいじゃないんだけど・・・。
「ねえ、名前なんていうの?」
わざわざ視線を外して会話の拒否をアピールしたのに、転入生はそう質問してきた。私はしかたなく目線を転入生のほうに向け、質問に応える。
「・・・須藤だけど」
「下は?」
「・・・茉麻
「マーサ?へぇー、かわいい名前だね」
転入生はさっきの自己紹介と同じように、ニコニコと笑いながら、そう言った。
「・・・ありがと」
私は一応そう言った。
・・・自己紹介のときに感じてたけど、やっぱりこの子、苦手なタイプだ。馴れ馴れしい。なによりこの屈託のない笑顔が嫌だ。へらへらしちゃってさ。なにがそんなに楽しいの?って聞きたくなる。
そんな私の思いは知らずに、転入生は相変わらず笑顔のまま
「仲良くしてね」
と言った。私はごくごく真面目に『友達なら他を当たって』という言葉を言おうとしたが、そこでタイミング悪くチャイムが鳴ったので、転入生は私の返事を聞かず前を向いてしまった。
・・・まあいいか。別にあえて言うことじゃないもんね。