小説6 夏焼1

「あーかったるい。なんかイライラするし」
私はそんな風にぼやきながら、学校まで後50メートルほどの道をブラブラと歩く。携帯で時刻を見ると、すでに12時を大きく過ぎていた。
大遅刻ってやつだ。でもそんなのは関係ない。これは私にとっていつものこと。私が登校するのは早くても2時間目の途中から。一時間目の授業なんて受けたことが無い。そしてもちろん手ぶら。カバンは机にかけっぱなしだし、教科書は全部机の中だ。あんな重いものを毎日持ってきたり持って帰ったりするやつの気が知れない。
「・・・まあ普通は家で勉強するんかね」
私はそう呟きながら、無意識に胸ポケットを探る自分に気づいて「チッ」と舌打ちをする。
「はぁ・・・、このイライラはニコチン切れのせいかねぇ」
最近、未成年は自販機でタバコが買えなくなったので、現在強制禁煙中だ。
コンビニで買えない事もないけど、やっぱなんか買いづらいしなぁ・・・。
「あーあぁ。なんか楽しいことないかなぁ」
私はそう呟きながら、ようやく校門を通り過ぎた。




人がそこいらで数人のグループになって話をしている。いつもと同じ昼休みの風景だった。私は相変わらず重い足取りで、自分の教室に行く為に階段を上っていく。その途中の階段の踊り場で、数人の女が一人の女を囲んで、あーだこーだ言っている所に出くわした。囲まれている女はひたすら「ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返し、頭を下げている。雰囲気でいじめだな、とわかる。よく見てみると、私と同じクラスの奴らだった。
まあ、全員名前はわかんないけどな・・・。
いじめなんて正直どうでもいいし、いつもなら素通りするところだけど、今日はなんかむしゃくしゃしてるし、こいつらに腹いせさせてもらおうと考えて、私は
「つまんねえことしてんじゃねえよ」
と声をかけた。囲んでいる連中は振り返って、私の顔を見るなり
「な、夏焼!!」
と、驚いた様子で言った。
なんだ、そのリアクション?よくわからんけど、私を『よびすけ』にするとはいい度胸じゃん。
私はイラッときたので、呼び捨てにした女を
「夏焼?」
と、言って睨むと
「夏焼・・・、さん」
と、女は渋々といった感じで敬語になった。
ビビリやがって。小さいやつら。
私がそう思ってると階段から一人、でかい女が降りてきた。
こいつは知ってる。えーっと、確か熊井だ。
熊井は階段を降りながら、無表情でこっちを睨んでくる。
「なんだよ。やんのか」
私はそう言ったものの、内心舌打ちをしていた。
確かこいつはなんか格闘技をやってたんだよな・・・。まあ負ける気は全然しないけど、正直チョイ面倒だなぁ。
しかし熊井はその言葉に応えず、すっと私から視線を外し、囲まれている女が抱えている袋に手を入れ、中から焼きそばパンを取り出した。
「これ、私のだよね?」
「ごめんなさい熊井さん・・・。『焼きそばランド』が売り切れてて・・・」
「別にいい。はい、お金」
熊井はそう言って、囲まれている女に金を握らせると、何事も無かったように、また階段を上って行った。それにつられるように、囲んでいた女たちも恨めしそうな目で、私と囲まれていた女を睨んでから引き上げていった。
「あの・・・ありがとう」
あっけにとられていた私に囲まれていた女が涙目でそう声をかけてきた。
「ちっ、うっせーよ!!」
私はそんな風に吐き捨てて、階段を上り始めた。
あ〜、ストレス発散どころか、なんか逆にストレスが溜まってきた。今日は授業はパスだ。屋上で昼寝でもするか。