小説7 熊井1

やはり足りないな・・・。
私は約30秒ほどで完食してしまった焼きそばパンのビニール袋を見つめながら、フウッと小さくため息をついた。周りには数人の仲間がペラペラと喋りながら食事をしている。人間、口は一つしかないのに、よくもまあ器用に出来るものだと少し感心する。
それにしても仲間、か・・・。
私はなんとなく、自分の周りにいる矢口たちを見た。
客観的に見て矢口たちは、その他大勢からは私の仲間と認知されているのだろうな。実際はそんないいものではないんだが・・・。




この子たちとこういう関係になったのは入学して間もない頃だ。別に私はなにかしたつもりはない。が、ある日の放課後、私は矢口たちに「ちょっと来てもらうよ」と連れ出された。まあ大方の予想はついていたが・・・。身長が高く、無表情な私が生意気だと見えたのだろう。人気の無いところに着くと、案の定こんなことを言われた。
「あんた生意気だよ」
正直やれやれと思った。そしてまたか、とも・・・。中学の時も同じようなことを言われたな、とその時思い出して、思わずため息をついてしまった。それを見て矢口たちはさらに怒った様子でこんなことを言ってきた。
「調子にのってんじゃないわよ!!」
今にも殴りかからんとする勢いだ。喧嘩は困る。なので私は中学の時と同様に無言で腰を落とし、いきなり正拳突きを相手の顔面に放った。もちろん当てはしない。寸止めだ。しかしそれで効果は十分であることは中学の時に学んでいる。
「・・・次は当てる」
すでに恐怖で固まっている相手に必要ないかもしれないが、私は一応そう念押しして、その場を立ち去った。これでもう関わってこないだろうと思っていた。しかしこの子達は何を考えたのか、掌を返したように私の周りにまとわりつくようになった。一体なんなんだとは思ったが、私は矢口たちを否定も肯定もしなかった。
しばらくすると矢口達はクラスメイトの一人、清水をいじめるようになった。私は普段どおりしているつもりなのだったが、いつの間にかいじめグループのリーダーに祭り上げられていた。私がやめろと言えば、この子達はいじめをやめたかもしれない。しかし何故かそれが声になることはなかった。




「―――にしてもムカつきますよね。熊井さん」
その声で私の思考は途切れた。矢口が私のほうを見ていたので、答える。
「何?」
「夏焼ですよ。あいつ調子にのってません?」
「夏焼か・・・」
私はそう言って、さっきのことを思い出す。
夏焼は矢口たちから清水を助けたようだ。夏焼はクラスメイトだがほとんど教室にはいない。世間で言う不良という奴だ。清水を助けたのも、たぶんただの気まぐれだろう。だが・・・。
私はそこで思考を中断して、もう一度ため息をついた。