小説10 嗣永2

放課後、私は体育館の中にいた。目的はもちろんバスケット部の吉澤先輩。体育館の中には同じ目的であろう女子が数人いて、吉澤先輩が何かアクションを起こすたびに、キャーキャーと黄色い声を上げている。
・・・よく恥ずかしげも無く、そんなことができるものね。ていうかそんなことしても無駄なのが分らないのか、この子達は?あんた達なんかに吉澤先輩が振り向くわけ無いのに・・・。はぁ、ホント頭悪い。
「よーし、10分休憩!!」
顧問の先生の声で、バスケ部の人たちはそれぞれ体育館の端に行き、壁にもたれかかるように座り込んだ。それと同時にさっきまでキャーキャーとわめいていたバカな女子たちが数人、吉澤先輩の元へと駆け寄り、タオルを渡そうとしたり、スポーツドリンクを渡そうとしたりしている。先輩は「ありがとう」と言いつつも、困ったような顔をしていた。私はその光景を見て、一度ため息をついてから先輩の下へ駆け寄る。そしてその途中で先輩に見えるように転んで見せた。
「痛ーいっ!!」
私は少し大げさに声を上げて、その場にうずくまった。すると計算どおり、先輩がこっちにやってきて
「嗣永。大丈夫か?」
と、心配そうに声をかけてきた。私は少し涙目で
「平気です。私ってドジだから・・・」
そう言いながら足を押さえ、痛そうな演技をする。それを見た先輩は、さらに心配そうに言う。
「ホントに大丈夫か?なんなら保健室に一緒に行こうか?」
「いえ、ホント平気ですから」
私はそう言いながら、ゆっくりと立ち上がろうとして、途中でよろめき、先輩のほうへと倒れこんだ。もちろんワザとだ。自然、先輩は私を抱きしめるような姿勢になる。それを見た周囲のバスケット部員から、先輩を茶化すような声があがる。
「あ、あの・・・、ごめんなさい!!」
私はそう言いながら、少し大袈裟に慌てた素振りをして、先輩から離れる。見ると先輩は顔を真っ赤にしながら頭をかいて照れていた。
「あの・・・、応援してます。がんばって下さいね」
私は少し間をおいて、遠慮がちにそう言った。先輩は相変わらず顔を真っ赤にしていた。
ふう・・・、まあ今日のところはこんなもんでしょう。
満足した私は先輩に気づかれないように目線を遠くにする。そこにはさっきまで先輩の周りにいた、バカな女子たちが恨めしそうな目でこっちを見ていた。
フン、これがプロの技よ。できるもんなら真似してみなさい。・・・まあ、あんた達がやったところで効果はないと思うけど。