小説11 須藤2

私は学校から帰る途中、コンビニへと立ち寄った。普段はまっすぐと家に帰るのだが、今日は毎週購読しているマンガの発売日だったからだ。
『キッド様』は今回どんな活躍をするかな〜♪
若干ハイテンションで雑誌コーナーに置いてある、目当てのマンガを手に取ろうとしたところで、私はふと隣に並んでいる雑誌が気になったので、それを立ち読みすることにした。
表紙を飾るのは、今人気の『℃-ute』という、女性5人からなるアイドルユニットだった。雑誌をめくると、まずページいっぱいに彼女たちの集合写真が写っている。みな一様に満面の笑みだった。次のページをめくると、今度は一人一人のアップの写真があり、下のほうにはなにやらコメントが書かれていた。誰でも言えそうな、とりとめもないコメントである。
・・・まあ、ファンにはこういう何気ない言葉が嬉しいんだろうけど。
私はそれを見るともなしに見て、ページをパラパラとめくる。5ページほどめくったところで違うアーティストが出てきたので、私はその雑誌を閉じて棚に戻し、代わりに目当てのマンガをとり、レジへと向かった。
コンビニを出て家に帰る途中、私はさっき見た雑誌のことを思い出していた。彼女たちは数年前、某オーディションで約30000万人の中から選ばれた子達だった。どうして私がその事を知っているかというと、実は私も彼女達と同じく、そのオーディションを受けていたからだ。




その日、私はいつものように憧れていた、当時人気絶頂のアイドルグループ『モーニング娘。』が出演しているテレビ番組を見ていた。毎週ワクワクしながら、欠かさず見ていた番組だ。
私もこんな風になりたい。
その思いがいつからあったのか定かではないけど、でもずっと思っていたことだけは確かだ。だからその日の番組の内容を見て、私は飛び上がって喜んだ。
「『モーニング娘。』の妹分募集!!」
私は番組を見終わると、すぐに「受けたい!!」と親に話した。親は笑っていたが、私があんまりしつこく言うので「まあ受けてみたら」と、渋々ではあったが承諾してくれた。
このオーディションには、まず一次選考の書類審査があった。当時人気絶頂のアイドルグループの妹分ということなので、全員をオーディションに受けさせるわけにはいかなかったのだろう。当時の私にはそんな事情は分らなかったけど、とにかく私は応募の書類に自分が一番かわいく写っている写真を貼り、出来る限り丁寧な字で、その書類を一生懸命書いた。もしアイドルになれたら・・・。目標は・・・。受かったら○○さんに『ゆいたい』です・・・。などなどだ。
その紙にはそう、夢というものが、ぎっしりと書き込まれていた。
私はそれを封筒に入れポストに入れた。そしてこれでアイドルになれると、何故か信じきっていた。
しかし結果は違った。私は一時選考の書類審査すら通らなかった。ポストに届いたのは薄い封筒で、中身は当時子供の私には、よくわからない文章だったことは覚えている。
しばらくして、そのオーディションの合格者が例のテレビ番組で発表された。私はぼんやりとその画面を見ていた。悲しいとか、悔しいとかいう感情はなかったと思う。ただその時、私は「あぁ、自分は普通の子なんだ」ということを知ったのだった。




ふいに転入生の、にこやかな顔を思い出す。整った顔立ち。愛嬌のある笑顔。
「ああいう子だったらアイドルになれたのかなぁ・・・」
私はなんとなくそんなことを呟いていた。