小説18 清水3

授業中、私は昨日の放課後のことを思い出していた。始めはぎこちなかったけど、私がタバコを吸うのを見て、なにやら私の吸い方が映画俳優とそっくりだとかで、夏焼さんが大笑いしたのをきっかけに、私たちは徐々に打ち解けていった。夏焼さんはみんなから怖い不良と言われ、実際私もそう感じていたのだけど、話してみると彼女は全然怖い人ではなかった。
私と同じ、とは言えないし、普通の女子高生、ともいえないかもしれないけど、そこにいるのは1人の女の子だった。


そこでチャイムが鳴り、3時間目の授業が終わる。ふと隣を見ると、転入生の菅谷さんは今日もひたすら寝続けていた。昨日はそのせいで、お昼ご飯を食べ損ねたのか、午後の授業は彼女のお腹が鳴る音が頻繁に聞こえてきた。
う〜ん、このままだとまた同じことになっちゃいそう。本当は昼休みに起こしてあげれればいいんだけど、その時間は急いで買出しに行かなきゃだから、そんな時間は無いよ。
私は少し逡巡してから、思い切って声をかけることにした。
「菅谷さん、菅谷さん。もう3時間目終わったよ」
私はそう言って菅谷さんの肩を軽くゆする。
「フガ?」
と、言いながら菅谷さんは目覚めた。菅谷さんは寝ぼけた様子で目をゴシゴシとこすり、時計を見る。そして驚いたように
「うそっ!!もうこんな時間っ!?あぁ〜〜、またやっちゃたよぅ〜・・・」
と、言った。私はそれを見て、思わず笑ってしまった。それに気付いた菅谷さんは私を見て言う。
「起こしてくれたんだ。ありがとう。えっと・・・」
「あっ私、清水。清水佐紀
「清水さん。助かったよー。またお昼ご飯を食べれなくなるとこだった〜。ホントありがと」
そう言って菅谷さんはにっこりと笑った。
いい笑顔だなぁ・・・。
私はそこで思い切って聞いてみることにした。起こしたのには菅谷さんに聞きたいことがある、という理由もあったからだ。
私が朝、校門前を通りかかったときに菅谷さんは「部活やりませんかー」と生徒に声をかけていた。私はたまたま多くの生徒が通った時に一緒に通り過ぎたので、菅谷さんは声をかけてこなかった。
・・・ちっちゃいから見えなかったのかもね。
「あのさ、朝、校門のところで何やってたの?」
「あぁ、あれ?あれは部員の募集してたんだ〜。ダンシング部っていって、歌って踊るクラブなんだけど」
あぁ、あれ『ダソシソグ』じゃなくて『ダンシング』って書いてあったんだ・・・。歌って踊るクラブで『ダンシング』ね。なるほど、ようやく謎が解けたよ。そっかぁ・・・、なんか楽しそうだなぁ。
「清水さん、どうかな?あっ、何かクラブやってたら無理には言わないけど・・・」
「私は何もやってないけど―――」
―――たぶんダメだよ」と、言おうとする前に、菅谷さんはすごく嬉しそうな顔で
「ホント、じゃあぜひっ!!すっごく楽しいよ!!」
と、言ってきた。
一瞬、心が揺らいだ。思わず頷いてしまいそうになる笑顔だった。しかし私は思いとどまる。
「・・・でも私、運動神経鈍いし」
「大丈夫だよ。いっぱい練習すればなんとかなるよ。私も運動はあんまりできないしさ」
「うーん・・・。でもちょっと私には無理・・・、かな」
「そっかぁ・・・、残念だなぁ」
「ごめんね」
「ううん、いいよ。あ〜あぁ・・・、誰かやりたい人いないかなぁ」
菅谷さんはそう言ってため息をついた。私は本当はこの誘いがとっても嬉しかった。そしてやってみたいと思った。何故かはわからないけれど、何かが変わるような気がしたのだ。でも・・・、私はいじめられている。
私と仲良くしたら、菅谷さんに迷惑かかっちゃうよね・・・。
その事が頭に浮かんでしまい『ホントの自分』は出せなかった。