小説20 熊井2

私は自分の席で昨日とは違い、いつもの『焼きそばランド』を食べていた。
・・・うん、やはり私はこれじゃないとな。
そう思いながら私は朝の出来事を思い返していた。




朝、いつものように登校すると、校門前で大きな紙を持った転入生が「部活やりませんかー」と言っている光景を見た。そして私が横を通りかかると声をかけてきた。
「あっ、昨日はありがとね」
・・・昨日?ああ、そういえば職員室の場所を教えたのだったな・・・。
「いや、別に」
私はそう言ってから、転入生が手に持っている紙を指差して質問する。
「これは何?」
「これ?これはダンシング部の部員募集してるんだ!!」
転入生は満面の笑みでそう言った。その笑顔はなんというか、絵に書いたような笑顔だった。
私には到底真似できそうにないな・・・。
そんなことを思いながら、その紙を見て、ふと気になったことが口に出る。
「・・・『ン』が『ソ』になってる」
「えっ、嘘?」
そう言って転入生は自分が手に持っている紙を見て言う。
「これ『ン』のつもりなんだけど・・・。えっと・・・、見えない?」
「見えない」
「うぅ、ショックー!!あっ!!ということは、他のみんなもそう思ってたのかなぁ!?じゃあじゃあ、私、ただの変な子じゃんっ!!」
転入生はそう言うと、ガックリといった感じに顔を下へ向けた。
・・・仮に文字をしっかりと書けていたとしても、変わってることには変わりないと思うのだが。
そんなことを考えていると、転校生は思い出したかのように勢いよく顔を上げて
「あっ、どうかな。ダンシング部?」
と、にっこり笑ってそう言ってきた。
・・・落ち込んでいたんじゃないのか?切り替えの早い子だ。
「いや・・・、私は家で習い事をしてるから」
「そうなんだぁ・・・」
「悪い」
「ううん、引き止めてごめんね。それに字のこと教えてくれてありがと」
「ああ、じゃあ」
そう言って私はその場を離れた。字は変だったが、私はそれより、その下に描かれている絵が気になっていた。そこにはかわいい服を着ている女の子が楽しそうに笑っていた。




「―――じゃあ熊井さん、お願いしますよ」
と言う矢口の声で私は我に返る。
「ん?ああ・・・」
何を言われたのかわからないまま、私はそう返事をした。