小説25 清水4

放課後、今日は私も矢口さんたちも掃除当番に当たっていなかったので、私は6時間目が終わると、真っ直ぐに帰宅した。
「ただいま・・・」
「おかえりー!!す〜ぐ、ごはんにするからね」
「はーい・・・」
私はお母さんにそう返事をしてから、自分の部屋で着替えを済ませ、台所へと向かう。
「じゃーん!!今日は佐紀の大好物の『ジャングルオムライス』よ」
お母さんは振り返りながらそう言って、フライパンに乗ったままのオムライスを私に見せる。ちなみに『ジャングルオムライス』とは、お母さんの得意料理の一つである。ポイントはケチャップをベースに、ピーナッツバター、『なむぷらー』など、11種類もの調味料を混ぜ合わせた特製ソースにある。ちなみにこの特製ソース、お祭りの臭いがする。
「うん、嬉しい」
私は明るい声でそう言ったつもりだったが、お母さんは心配するような表情で尋ねてくる。
「佐紀、最近元気ないよ。やっぱり学校で何かあるんじゃないの?」
「え?そんなことないよ。友達もいっぱいいるし、とっても楽しいよ」
「・・・隠してないで本当のことを言って」
お母さんはおっとりしているように見えて、するどい。私の小さな変化をいつも見落とさない。それはすごく嬉しいことで、そして少し苦しいことでもある。
「だから大丈夫だって。もう心配性だなぁ・・・。あっほら、お母さん、焦げるよ」
「あら大変」
私はそう言って、お母さんの詰問をなんとかやりすごした。私がいじめられてるなんて、そんなことは絶対言えない。私は食事中も明るく振舞った。食事を済ませて部屋に戻り、ドアを閉めたと同時にため息をつく。ベッドに倒れこむように寝そべってから、私は昼休みの夏焼さんとの会話を思い出していた。




屋上で取りとめも無い会話の途中で、ふいに夏焼さんは
「なあ、なんで清水はいじめられるようになったんだ?」
と言ってきた。私は少し黙ってからこう答える。
「さあ・・・、そんなのわかんないよ・・・。でもいじめられるにはきっと何か原因があるんだよね。前読んだ本に『いじめられる側にも原因がある』、そう書いてあったから・・・」
「それで清水は納得したのか?」
「えっ?」
「それで納得できたのかって聞いてんの!!」
夏焼さんは少し怒っているようだった。
「私は・・・」
そこまで言ってうつむいてしまった。そんな私に夏焼さんはこう言う。
「私だったら納得できない。いや、絶対に納得しない!!そんなのいじめるほうが100パーセント悪いに決まってるじゃん。『いじめられる側にも原因がある』だって?じゃあそう言ってる奴は、もし自分がいじめられたら『これは自分に原因があるからだ』って思うってのかよ?それでいじめる奴をを許せるってのかよ?まあそいつは納得してるからいいかも知んないけど・・・。でもな―――」
そこで夏焼さんは言葉を区切る。私は彼女の表情を見た。真剣だった。
「―――相手にどんな原因があろうが、それがいじめていい理由になんか絶対なるはずがない!!清水、お前がいじめられる理由なんてどこにもないんだぞ!!」
夏焼さんの声は私の頭の中で響くように聞こえてきた。私はいつの間にか泣いていた。