小説33 嗣永5

昼休み、私は自分の席でお弁当を食べていた。クラスの子達は男子も女子も2、3人のグループになって食事をしているが、私はいつも一人で食べることにしている。レベルの低い会話をしながら食事をするなんて馬鹿馬鹿しいし、お弁当もまずくなるからだ。私以外にクラスで一人で食事しているのは熊井だけだった。
まあ、あの子は別に何にも考えてないんだろうけどね。
そんなことを考えていると、突然後ろのほうから「やったー」と、大声が聞こえてくる。振り返って見てみると、転入生の『すがさこ』がピョンピョン飛び跳ねていた。どうやら大声はこの子からのようだった。私はなんとなく、その周りの人にも目をやる。周りにいるのは地味で目立たない須藤、いじめられてる清水、そして不良の夏焼だった。
・・・珍しい組み合わせね。
そう思いながらなんとなく様子を伺っていると、どうやら『すがさこ』はダンシング部の部員になってくれたことに喜んでいるようだ。
「ふーん・・・。物好きもいるモンね」
私はそうつぶやいて食事を再開した。その後も『すがさこ』は興奮した様子でなにやら喋っていたが、当然興味ないので私は食事に集中しようとした。しかし『すがさこ』の声が大きいので嫌でも耳に入ってくる。
・・・うるっさいわね、まったくなんなの?はぁ、ホント頭悪い。
私が少しイラッとしているところで、一つ気になる言葉が聞こえてくる。
「―――学園祭で踊るんだ―――」
私はその言葉を聞いて、一瞬箸を止める。次の瞬間には何事も無かったように食事を再開したが、頭の中には『すがさこ』の言葉があった。
ふーん、学園祭に出るんだ・・・。まあ、どうせたいしたもんじゃないだろうけど・・・。でもあの子、顔だけは悪くないしね。もしかしたらそれをきっかけに人気者になっちゃうって可能性もあるか・・・。私より人気者になれるわけないけど、ほっとくのもちょっと気になるわね・・・。
私はそこまで考えて、一つの決断をした。私は食事を済ませ、『すがさこ』が一人になったところを狙って声をかける。
「ねぇ、菅谷さん。昼休み、何の話してたの?」
「うん、ダンシング部のことなんだけど、一気に3人も部員が増えたんだ!!」
はぁ、嬉しそうにしちゃって・・・。
しかしそんなことはもちろん顔には出さない。
「・・・あのさ、私も入れてくれるかな?」
「え?ホントに?あっ、でも嗣永さん、習い事で忙しいって言ってなかったっけ?」
「うん、そうなんだけど・・・。でもやっぱりやりたいって思ったから。ダメかな?」
「全然!!もちろんオーケーだよ!!!やったぁ!!」
『すがさこ』はそう言って、昼休みの時のように嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねていた。
はぁ、頭悪い・・・。まあ練習は適当に顔を出せば大丈夫でしょう。そうだ、この子達を引き立て役にして、私の人気を更に上げるってのも悪くないわね。