小説34 熊井4

昼休み、私はいつもどおり自分の席で食事をしていた。いつもと違うのは、周りに人がいないということ。いつもは授業が終わるたびに、私の周りに集まってくる矢口たちだが、今日は一切近づいてはこなかった。朝、教室に入った時に目があったが、恨めしそうな目でこっちを睨んできただけだった。当然昼休みも私のところには来なかった。いつも買ってきてもらっていた食事もないので、私は購買でパンを買いに行くことにした。
そういえば私は購買には行ったことがないな・・・。
購買は人が大勢いて、とても物が買える状態には見えなかった。私はしばらく後ろのほうで待ち、人がいなくなってから
「焼きそばランド下さい」
と言った。購買のおばちゃんは、それを聞いて呆れたように言う。
「あんた・・・、今頃来て焼きそばランドなんか買えるわけないでしょ。あれは人気メニューでいつもすぐ売り切れちゃうんだから。この時間じゃ普通の焼きそばパンだって売り切れだよ。残ってるのはこれくらいさ」
おばちゃんが示したのは、アンパンとトマトパンという二つだけだった。
・・・トマトは苦手だ。・・・というか、トマトパンってなんなんだ?さすがに強引過ぎないか?
「・・・じゃあアンパン下さい」
私はそう言ってアンパンを買い、教室へと戻った。食事中、私はさっきのことを思い出す。
それにしても購買はひどい混雑だったな。私が人が多いところが苦手だというのもあるかもしれないが、それでなくてもあそこでの買い物は苦労するだろう。知らなかったとはいえ、私は毎日清水にそんなことを押し付けていたんだな。なにが祭り上げられていた、だ。私もいじめにしっかり加担しているじゃないか・・・。
「元気ないね。どうかしたの?」
話しかけてきたのは転入生だった。ニコニコと笑っているので、心配している顔には不釣合いのような気がしたが、でも不思議と嫌な気分にはならなかった。
「えっと・・・、大丈夫?」
「ん?ああ、すまない」
私は転入生の笑顔をジッと見つめていたようだった。
「大丈夫だ、心配してくれてありがとう」
「ううん、それならよかった」
転入生はそう言って、また笑った。
いい笑顔だな・・・。
私は素直にそう思った。同時に昨日見た、ポスターの絵を思い出す。
「・・・私でも入れるかな?」
私は気付いたら、そう言葉にしていた。